まちと交通 2007年11月 21号
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■発行■発行人■発行年月日■編集■機関紙お問合せ先(財)豊田都市交通研究所専務理事 村井 清2007年11月15日板谷、太田〒471-0026 愛知県豊田市若宮町1-1TEL 0565-31-7543(担当:中村、板谷) FAX 0565-31-9888URL http://www.ttri.or.jpE-mail machi@ttri.or.jp■編集後記 生活道路の安全に、かつてないほどの関心が集っている。 交通事故全体が減少傾向にある中で、生活道路だけは高止まりの状態を抜け出せていないことや、「高齢者」、「歩行者」、「自転車」といった、最近注目されているキーワードが深く係わることなど、いくつかの理由が考えられる。 「ITS」も、そうしたキーワードのひとつと考えるべきだろう。 例えば、普及著しいカーナビと生活道路の安全の関係について、広く・深く研究する余地がある。もちろん、うろつき交通の削減効果というプラスの効果は期待できるが、一方で、カーナビで発見した抜け道を使うドライバー"Intelligent Rat Runner"の存在も否定できない。生活道路とカーナビの関係に着目しながら、道路側やクルマ側でどのような対応が可能か、早急に検討を進めるべきだと思う。 生活道路とITSといえば、なんといってもISA(Intelligent Speed Adaptation*)である。 ISAのひとつの有望な使い道として、ゾーン30**のような生活道路への適用が期待されて久しい。ゾーン30に入った車両が、どんなにアクセルを踏んでも30km/h以上出ないようにすることは、技術的にはすでに確立ずみである。よく知られているように、欧州のいくつかの国では、すでに大規模実験等を行ってその可能性を確認してきた。 ところが、そうやって先陣を切ってきた欧州でも、その実現化についてはいささか消極的に見えるのはなぜだろう。不思議に思って、それらの国の政府関係者に聞いてみたところ、異口同音に彼らが口にしたのが、「移動の自由」の問題であった。自動車発祥の地である欧州人から見ると、ISAが、自動車によって人々が獲得した「自由な移動の権利」を阻害するものと映っているようなのである。この問題は、技術と人間の関係を考える上で大変興味深い事象であると思われるが、生活道路とITSを考える際には、こうした面からの考察も避けて通れない。 他にも、生活道路から通過交通だけを選択的に排除できるライジング・ボラード***についての法的・技術的可能性や受容性の検討など、生活道路と深い関係を持つITS技術は数多い。 これらを、仮に「生活道路ITS」と呼んで、できるところから進めて行きたいと考えている今日この頃である。*Intelligent Speed Adaptation(高度速度制御):自動車がある速度を超えて走行している場合に、情報提供したりアクセルペダルに負荷をかけるなどして走行速度を低下させる技術のこと。 **ゾーン30:住宅地などの特定の地区内の制限速度を全て30km/hに設定することで、歩行者の安全を守る制度のこと。欧米で広く普及している。***ライジング・ボラード:自動昇降式の車止めのこと。条件を満たした車両のみが通行できる仕組みで、ヨーロッパでは公道上でも広く普及している。「生活道路の交通安全とITS」 埼玉大学大学院 理工学研究科 教授 久保田 尚巻頭言「まちと交通」~TTRI News Letter~ 21号TTRI Letter 21号 12007年11月TTRI Letter 21号 4研究所活動報告豊田市では、11月から基幹バス「とよたおいでんバス」が走り始めました■目次 P2:特集/交通安全最前線 4:研究所活動報告 風の冷たさがこたえる季節になりました。2007年秋号となる「まちと交通」第21号をお届けいたします。今号では、改善に向けて長年にわたる地道な努力が続けられている交通安全分野を取り上げました。巻頭では、NHK「ご近所の底力」で何度も地域の安全を高めるアドバイスをなさっている埼玉大学の久保田教授に、これからの交通安全にとって大きな技術革新となりうる技術の現状を解説いただきました。道路交通の現状の正確な認識と、現状を変える様々なアイデアとで、事故のない安全な道路を実現させたいものです。豊田都市交通研究所 研究報告発表会を開催 主任研究員 瀬尾 和寛写真:山﨑 日時:2007年10月1日(月)13:30~16:00 会場:豊田商工会議所ビル2階 多目的ホール 参加者(聴講者):74名 豊田都市交通研究所の研究報告発表会は、今年で開催3回目を迎えました。研究発表会は、研究所事業の一つの柱である「研修・交流事業」として位置付けており、市民や企業・行政関係者に対して、交通・都市計画関連分野の人々が集う交流の場を提供しています。 今年の研究報告発表会は、市民や企業関係者、大学・研究機関など74名の聴講者にご参加いただき、研究発表に臨んだ研究員にとってもやり甲斐のある発表会となりました。 定刻どおり開催された研究発表会は、太田勝敏所長の開会の挨拶に続き、特別講演として、トヨタ自動車の秋山由和さん(IT・ITS企画部技術室長)より『安全運転支援システムのためのインフラ協調システム』と題してご講演を賜りました。自動車メーカーとしての最先端のITS技術を活用した取り組みをご紹介いただきました。 続いて行った6名の研究員による研究発表では、昨年度に取り組んだ自主研究・受託研究の中から主要な研究テーマについて発表しました。研究発表は、交通安全、公共交通、交通円滑化、住民参加、ITSなどの分野について行われました。発表は各10分間という短い時間でしたが、参加者からは、同日実施した参加者アンケート結果を含め、研究所に対する期待、幅広く多くのご意見を賜りました。参加者からの要望・意見を踏まえて、次回の研究報告発表会ではより一層、充実した研究発表会にしていきたいと思います。写真1 開会挨拶する太田所長写真2 発表会風景・参加者から多くの意見が出されたコラム四季折々「交通事故死ワースト1返上!」専務理事 村井 清 本年も残すところ1ヶ月余りとなりました。当研究所の所在地である愛知県は一昨年、昨年と2年連続で「交通事故死ワースト1」という不名誉な記録を作ってしまいました。何としても3年連続は回避するという関係者の強い思いで年初より交通事故対策に取組んできました。最新の速報(11月15日付け)では、前年より37件マイナスの247件で、256件の北海道に次ぐ2位(3位は229件の東京都)。平成2年から平成16年まで13年連続ワースト1にあった北海道は「基本対策を愚直に推進してワースト1を返上した(「地域づくり」2007年3月号)」とあります。北海道を視察した愛知県関係者は「愛知県は国道1号線や東名高速などの通過交通を抱えて大変ですね」と同情されたとも聞きます。 財団法人交通事故総合分析センター(ITARDA)が機関紙10月号で公表した平成18年の1万人当たりの死者数は全国値で0.48人。愛知県は0.46。市町村別に見ると、我々がフィールドとしている豊田市は0.50。近隣市の刈谷市0.80、岡崎市0.67、安城市0.66などと比較すれば低いですが愛知県全体値に比べると高いです。我が研究所は警察署の協力を得て交通事故情報を蓄積・分析し、事故多発地点の改良提案、幹線道路を外れた通過交通における速度対策社会実験(ハンプ=道路上に設置した凸部による速度ダウン)などで交通事故対策に寄与していますが、より安全・安心の観点で調査・研究を推進すべきと自戒するとともに愛知県の汚名返上を願うものです。
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