まちと交通 1999年10月 2号
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私どもの取り組みについて、2点ほどご紹介いたします。 まず、鎌倉駅を中心とした八幡宮周辺の鎌倉地域における交通問題の取り組みについてご報告いたします。鎌倉市では、今ある道路の資本を如何に活用するかというマネジメントの部分に力を入れて、道路問題の解決にあたりました。そして、基礎的要件を出す段階から多くの市民の積極的な参加を求めながら、取り組んでいくことになりました。この方針によって、平成7年に市民や商業者、交通事業者や沿線住民、警察、学識者の方々、総勢40名ほどで鎌倉地域の地区交通計画研究会を発足しました。研究会は公平性や公明性を重視するために全て公開で開催し、この内容を「研究会ニュース」として発行し、市内全戸に回覧しています。さらに傍聴者を募集したところ、毎回10名ほどの応募がありました。また、無作為で市民の方へアンケート調査も行っていますが、初回のアンケートでは約70%という高い回答率を得ることができ、交通問題について非常に前向きな回答が多く見受けられました。平成8年には、これらの結果が「鎌倉地域の地区交通計画に関する提言」に取りまとめられ、この中の市民宣言(案)に、「自ら自動車利用を自粛し、徒歩と公共交通を中心とする交通環境をつくり、古都鎌倉の歴史的遺産や風土をいかした新しいまちづくりを進める」が掲げられ、20の施策とそれらを具体的に進めるための社会実験を実践すると記述されています。また、ある意味ではこの研究会自体も実験ではないかと思っています。 次にパーク・アンド・ライド実験についてご説明いたします。鎌倉は非常に小規模の駐車場が点在しているため、駐車場を探すために渋滞が発生しています。実験は、車で鎌倉に来訪される方々の公共交通への転換方法の検証と意識調査、それから基礎的なデータ収集を目的として行いました。さらに、鎌倉市の交通問題への取り組みを多くの方に知って戴き、社会的機運を高めるきっかけづくりとしました。この実験自体、アンケート調査等も含めて、研究会が主体となり、行政は駐車場の配置計画やボランティアの募集、駐車場経営者や鉄道事業者との交渉を担当しました。2日間の実験で、延べ160人の市民ボランティアの方々にご協力戴き、737台1,811人の参加を得られました。料金については、将来的な実施に向けてシステム協力金という形で1台当たり1,000円で設定しました。このアンケートでは、90%を超える方々からパーク・アンド・ライドに賛成であるという回答を戴き、従来は駐車場を探すために多くの時間を要していたが、今回は必ず駐車場を確保でき、観光に十分な時間を充てることができたという意見が多くありました。逆に、公共交通が不足している状況では、パーク・アンド・ライドに賛成できないという意見や貸自転車等も考えるべきという意見もありました。これからの課題としては、乗換えの便利さや駐車場から駅までの移動の工夫などが挙げられますが、これからの試行に向けて、鉄道事業者や駐車場経営者との協議を重ねています。 次ぎに「環境手形」をご紹介いたします。先ほどのパーク・アンド・ライド実験は一定のゾーンの手前までは車の利用を前提としていますが、この環境手形の発行による実験は、出発地から公共交通を利用して戴く、その転換率のデータ収集を目的としました。これは来訪者向けと鎌倉市民向けの2つの内容で実験を行い、鉄道とバス、タクシーを組み合わせた「鎌倉フリー環境手形」と称した乗り継ぎ切符を各駅で発行しました。この実験のアンケートから手形利用者の5割が、「公共交通で来る動機となった」と回答し、このような条件が整えば公共交通で来訪する機会が増えるという結果がでています。また、このような実験では利害関係者との調整が問題になりますが、今後も各方面の交通事業者や商業者との調整を行いつつ、拝観料、協賛店などのサービスを充実させ、経済効果を図って行こうと考えています。 以上の2つの実験から、市民の側から自分たちの交通環境を改善していくというオピニオン的な姿勢が見受けられ、それによって交通事業者の方々の意識を変えていったという経緯があります。これは、枠組みを超えた新しい社会システムの途上であり、広い意味で合意形成や住民参加にも寄与できる部分ではないかと思っています。 これらの実験で、鎌倉市として確認できた効果を整理しますと、①この取り組みについて、社会実験という体験を通じて周知できる②施策の有効性や課題を検証できる③既存の枠組みを超えた新たな社会システムの構築に際しての試金石となる④市民からの意見表明による施策修正の機会の提供となる⑤関係者の意識向上と幅広い層の意思形成を図ることができる。 こうした積極的な市民参加に支えられた計画策定や社会実験を行っていますが、地域における新しい社会システムの構築について、徐々に地固めができています。今後はさらにロード・プライシングまでを念頭に、総合的な法制度の整理と広範囲のコンセンサスを得るために、より強力な市民とのパートナーシップに基づいた計画を推進していきたいと考えています。事例報告 鎌倉市における交通問題の取り組み講師:鎌倉市企画部 交通政策課長 高橋 保信
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