まちと交通 1999年10月 2号
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講師:札幌市市民局交通環境対策部 交通環境対策課長 下村 邦夫 札幌市では、都市交通政策、環境保全、福祉、機能的な都市構造の形成、さらに札幌市のイメージ形成といった5つの視点と交通と環境、交通と人、交通手段相互の3つの調和を交通政策の基本理念として、「人にやさしい交通対策」を積極的に推進しています。その実践例として、自動車利用のあり方を考え直す意味で、さわやかノーカーデーの実践、割安の一日乗車券いわゆるエコ切符や地下鉄、バス、電車に共通利用できるプリペイドカードを発売しています。さらにハード整備として、パーク・アンド・ライド駐車場の整備やバスの走行環境の改善、リバーシブルレーンの実験などを通して、公共交通機関の利便性の向上や渋滞の解消を目指し、様々な交通対策に取り組んでいます。 次に、札幌市における市民と行政による都市交通の新たな取り組みについて、札幌市都心交通対策実行委員会の概要からご説明いたします。 都心部では交通渋滞など都市交通問題が顕在化していて、住宅地のスプロール化や郊外大型店の増加に伴い、都心部のポテンシャルが低下しています。そこで、これらの状況を改善し、都心部を快適で魅力あるものとするために、市と行政で委員会を組織し、約2年間にわたる協議会での検討後、今後の都市交通対策のあり方をまとめました。その後、商業者、運輸事業者、町内会、行政関係などで構成する実行委員会が発足し、それぞれ立場の異なる関係団体や市民と行政が、都市交通問題の解決という共通の目標に向かって、具体的に取り組みました。当初は都心部における違法駐車対策で、キャンペーンや広報PRを積極的に展開し、都心部の違法駐車を約4割も減少させることができました。 平成6年からは、重点施策として、「人にやさしい交通対策」が打ち出され委員会でも、よりテーマ性をもった活動を展開するようになり、路上荷さばき効率化に関する懇談会や都心部の交通対策に関する研究部会が設置され、委員会の枠にとらわれず、一般市民の方にも参加していただき、検討を重ねてきました。こうした研究成果の具体策を展開するステージが9年度から実施している都心部交通プロジェクトです。これは、交通問題の改善を通して、都心の活性化を図ることが目的であり、商業の活性化やそこから生まれる地元のエネルギーをまちづくりに活かしつつ、快適な歩行空間と公共交通、その他の交通機関が調和した魅力ある都心空間を目指しています。札幌市では、都心循環バス・魅力ある歩行空間・荷さばきのタイムシェアリング(時分割)という3つの実験プロジェクトを構成し、また海外事例を参考にどのようなシステムやまちづくりが良好な交通環境や商業の活性化に役立っているかを研究しています。 では、まず都心循環バス実験についてご説明いたします。これは、都市の集客施設と交通結節点を極め細かく周回して、来外者の周遊性を高める、また商業活動に資する、市民にもマイカーから公共交通機関への転換を促す企画です。大人100円、子供50円の料金設定で、都心部を10分間隔で運行し、延べ3回の実験運行を行いました。結果、都心部における短距離移動のための交通需要が検証されました。今後はさらにアンケート調査などを基にして、バス事業者や商業者、来外者などを含めた利用者、さらに沿線住民なども参加していただきながら継続していきます。 次に、魅力ある歩行空間についてですが、これは「歩行」を都市における重要な交通手段として位置づけ、快適に抵抗なく歩ける空間を実験的に創出したものです。公共交通をはじめ、各移動手段相互の連続性の向上やコミュニケーション、さらに交通と人のバランスを考えながら歩行者に配慮した道路空間のあり方を探るべく、約1年間にわたってワーキング・グループによる討議がなされました。実験では、人の動線や滞留時間、周遊箇所の変化を検証しました。商店街での滞留時間や周遊箇所の増加、さらにコミュニケーションの工夫によるリピーターの増加という結果を当事者である商店街の方たちが認識できたことは、非常に大きな成果であったと思われます。 また、荷さばきのタイムシェアリングにつきましては、新たなルールをつくり、集中的に荷さばきを行う時間と自粛する時間を分け、路上に荷さばきの効率化をテーマとしました。荷さばきの時間帯は特に大きな混乱もなく、また自粛時間帯はセーフティ・コーンや商店街、運輸関係者が参加して違法駐車に対する啓発を行いました。結果、一般車両の路上駐車が減少したため、荷さばきが効率的になり、貨物車1台当たりの駐車時間が短縮しました。 札幌市における住民参加型の交通対策の方向性としての当面の課題は、如何に今後とも試行錯誤しながら実験を継続していくか。そして、これらの取り組みの中で、魅力ある都心部のための交通需要管理システムやルールづくり、施設整備の充実、さらに市民と行政、行政機関相互の合意形成や利害調整を如何に図るかです。札幌市では、施設やシステムの優れた機能を支えているまちづくりのソフトウェアを探究し、実験を継続していきたいと思っています。特集 新たな交通まちづくりセミナー事例報告 札幌市の交通施策における継続的取り組み
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