まちと交通 1999年10月 2号
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3.「新しい交通まちづくりの思想」 に向けて【車のTPOと公共交通】 今回、私どもの本には身の周りの道路、生活道路の整備や管理、トラフィック・カーミング(交通静穏化)の事例等、道路を中心に紹介してあります。ところが交通まちづくりについて考えた場合、障害者、高齢者のアクセス問題、バリアフリー、あるいは中心市街地の活性化や交通安全等も重要なまちづくりのテーマであると思っています。そういう視点から今後新たに重要な問題となるのは、公共交通と車の関係です。特に現在の車依存社会の中で、車という便利な道具を使いながら、次のまちづくりを進めていかなければなりません。私は車利用についてTPO(Time, Place, Occasion)ということで、車の社会的に賢い使い方といっていますが、場所と時間と状況に応じた車の使い分けをすること、またそのための社会的ルールについて合意形成が必要になってくると思います。 次に、少し公共交通の絡みで今後の市民参加についてお話します。規制緩和と地方分権化という一般的な流れの中で、バス等の公共交通が各々の都市や市民に本当に必要かを議論せざるを得ません。その中で、どうやって公共交通を維持していくか。今後の市民参加では従来の道路整備、あるいは管理に加えて公共交通まで含めた問題が非常に大きくなってくると思います。 海外の事例では非常に概括的な整理ですが、公共交通について、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスには各々基本的な理念があります。公共交通は必要であるという合意と公共交通の維持に一般財源を含めて、市民にはお金を出してもよいという合意ができています。残念ながら、日本には明確なものがありません。欧米では理念として、ミニマムのモビリティの確保は必要であるという合意の基に交通計画が一つのオフィシャルな法定計画として認知されています。日本でも、理念や計画といった制度、それに伴う財源の確保を含めて詰めていく必要があります。それは地方分権という流れの中で、自治体あるいは都市圏レベルでのその連合体によって進めていかざるを得ないと思っています。 また、公共交通を確立していく上では、交通政策として位置付けるレベルと具体的に事業として提供することは分けて考えるべきであり、都市圏というレベルで、都市計画と総合交通計画が一体化した交通マスタープランを整備しなければなりません。当然、公共交通計画はサービスを含めて、そのマスタープランと連携させる必要があります。その意思決定には市民の参加が前提であり、計画の段階から参加のレベルを決定し、公共交通整備のために一般財源から負担するという合意が必要であると思っています。実際の事業は効率的であれば、公営でも民間でもよく、契約や入札、あるいは完全な自由競争もあり得ると思います。いずれにしましても、その時に市民はどのように参加し、関わるかという新しい仕組みをつくらなければ、公共交通のシステムは成り立たないと思っています。【専門家の役割】 前に述べましたように、21世紀のまちづくりで交通に関わる計画とその制度を考えると、市民との関わりの中で、どのように合意を得るかが非常に大きな課題となると思います。私は、他分野での経験を取り入れつつ、よい事例を増やして、その相互学習の中で、新しい思想が出てくるのではないかと思っています。その意味で、新たな価値に向かって様々な努力がなされると同時に、大学や実務のプロフェッショナル(専門家)が各々に責任を持つことが重要になってきます。海外では、最近プロフェッショナルの倫理が大変問題になっていて、交通あるいは都市計画の分野でも大学の授業で一つの単位になっています。我が国でも様々な参加を通して、プロフェッショナルの意識が問われる時代になり、地域住民の信頼を得るためには、自己改革も必要になり、制度的にも市民が中心となり都市レベルの交通計画をつくる必要があります。当然、交通問題は国や自治体によってレベルが違います。そのような異なるレベルとの調整、近隣地域や隣のセクションとの調整も必要になるでしょう。その意味で、新しい時代のまちづくりでは市民、関係者との連携、あるいはパートナーシップという形で、お互いに様々なアプローチについて一つの方向を目指し、実験や試行錯誤を重ねながら、学習していかなければならない時代です。 今日は、私の個人的な考え方も含め、一つの方向性ということでお話をさせて戴きました。どうも、ご静聴ありがとうございました。(おわり) インボルブ:含む。からませる。 アカウンタビリティ:説明責任社会実験イメージ(浜松市 トランジットモール)コミュニティバスイメージ(金沢市 ふらっとバス)
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