まちと交通 1999年10月 2号
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2.交通計画と参加【交通まちづくりの意義】 従来の交通計画では、需要が増えれば供給側も交通施設を整備するという考え方、需要追随型でしたが、このアプローチは2つの点で限界にきていると思います。1つは、需要に合わせた供給増加が財政的に難しくなったこと、あるいは沿道の住民や地権者の不安や反対を含めて、社会的にこの拡大自身が難しくなったこと。2つ目は、新たな社会的制約が出てきたこと。その一つの大きな制約が環境制約であると思っています。この中で新しいアプローチの仕方として、TDM(交通需要マネジメント)という考え方があります。公共交通や徒歩、または自転車を上手く利用して戴き、環境制約を侵すことなく、モビリティを大きく、都市活動を活発にしたいということです。そのためには、供給側も効率的なサービスの供給が可能な交通システムに拡充していくことが重要です。 それからもう一つ、需要と供給のバランスを上手くとるには、新しいアプローチのための制度が必要です。具体的には、社会的費用を内部化し、原因者負担にする、また交通整備は利用者だけでなく受益者全体で公平に負担するような経済メカニズムを構築し、交通アセスメントではっきりとした計画へのフィードバックの仕組みをつくるなど、いずれにしても需要と供給を一体化した総合型のパッケージアプローチといった新しい仕組みが必要になると思われます。【新しい計画プロセスと関連主体】 それでは、このようなアプローチが従来型の計画プロセスで可能かという点が次の問題になります。供給側がインフラ整備を進めると同時に、需要側にアプローチをするということは、利用者つまり市民や企業の協力が絶対に必要です。これはニーズを把握して計画を策定する上でも、施策を実行する上でも必要であります。当然、需要の源となる都市計画と一体的に行うことが重要であり、その中で市民という大きな利害関係者が入ってきます。それから制度フレームワークサイドで、市場メカニズムを上手く利用するために、社会的費用を計算して原因者に負担して戴きます。また、民間とのパートナーシップ、あるいはPFI( private finance initiative:民間資金による社会資本整備)のような新しい効率的な進め方もあります。このようなことを総合的に進めるために、今まで計画案を策定する段階で十分に意見が組み入れられなかった人々の意見をどうインボルブさせ、どのように組み入れていくのかということから、各々のレベルで、参加ということが重要な課題となってきていると思います。【計画のアカウンタビリティと社会評価】 そういう意味で、交通まちづくりでは従来の専門家や利害関係者の役割分担が随分変わってきています。今までは、主要な意思決定をする方々と市民、あるいはコミュニティの2者の間で、行政側の技術者が適宜アドバイスをするという形式でしたが、そこにプランナーやエンジニアのような技術者集団が外からサポートするという仕組みがアメリカで始められています。このような人々は役割として、行政だけでなく、コミュニティあるいは市民との対応を進める状況になっていて、それを制度的に保障する仕組みがアメリカその他で増えています。 【多様な参加形態、社会実験の重要性】 参加には、いろいろな仕方があります。『参加の車輪』(図-1)という例があり、これは情報、協議、参加、権限委譲など様々なレベルの参加、市民との関わり方があることを示しています。参加はどこから始めてもよく、一番最初の情報提供からでもよく、住民参加が進んでいる地域では、権限委譲をどこからするかなど様々な関与の仕方があります。 様々な参加レベルがあるということは、当然その状況により違いはありますが、計画対象や段階に応じて適切な工夫、仕組みをつくっていくことが今後の課題だろうと思います。行政判断による一方的情報伝達コミュニティによる公的サービス代行コミュニティによる意思決定コントロールの全面委任最小限のコミュニケーション限定的情報提供独立したコントロール質の良い情報提供コントロールの部分委任限定的協議(意見聴取)一定範囲での分権的意思決定顧客相談パートナーシップ(連携)真の協議効果的諮問機関行政が全面決定法的に必要な最小限の情報告知コミュニティが求める情報の提供コミュニティへの一部権限の委譲苦情・コメントへの対応コミュニティとの協働による問題解決コミュニティに一部の決定権の委託行政は行動の前にコミュニティと協議コミュニティへの提案要請限定的な情報提供と反応はコミュニティの責任協議情報図-1 参加の車輪参加権限委譲特集 新たな交通まちづくりセミナー

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