まちと交通 1999年10月 2号
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クルマ社会という言葉はすっかり定着したが、それを受けとめる具体的な都市の形についての議論がまだ十分でないように感じられる。市民の移動の多くが自動車で行われるような都市を例えばクルマ都市と呼んでみたとき、わが国のそれは、どのような形を目指すべきなのだろうか。 クルマ都市の議論は、1920年代の近隣住区論(アメリカ)、1963年のブキャナンレポート(英)など、自動車の洪水から都市を守るという、いわば防衛的な観点からスタートした。ところが、ブキャナンレポートの出版から四半世紀を経てブキャナン自身が名づけたところによると、人々にとって自動車は、Beloved Monster(愛される怪物)であり、都市の中でのより積極的な位置づけが必要なことが明らかになってきた。 ヨーロッパなどですでに一般化したパーク・アンド・ライドやフリンジパーキングなどは、郊外での自動車利用と都心部の混雑緩和を両立させようとする意味で、その方向に沿ったものであろう。近年流行のLRTもそのサポート施策と位置づけられる。 ところで、これらの施策は、その都市のかたちと密接に関わることは言うまでもない。ヨーロッパの都市には、地図の上でここと指させる明確な都心がピンポイントで存在する。市庁舎やその前の広場がそれである。そして、その周辺を含めた都心部の境界として、元の城壁、現在の環状道路が存在する場合が多い。また、近代になって登場した鉄道は都心部に入ることが出来なかったため、鉄道駅と都心部がかなり離れていることが多く、その2点間を結ぶ路面電車として、あるいはLRT路線として活用されやすいという事情もある。 わが国の場合はどうか。駅を中心にした街、近世以前からの中心部を踏襲している街など、バリエーションが多いが、共通にいえることは、市民の誰もが集まる空間、初めて訪れた人がとりあえず訪れる空間が不在であることである。特に地方都市の多くでは、賑わいの拡散化がますます進行しており、都心部という概念すらほとんど消滅しつつあるところも少なくない。アメリカでかつて議論されたような、拡散化のコストの問題や、都市のアイデンティティの問題として議論されるべき時期が来ていると思われる。 わが国のクルマ都市のかたちを考える上でまず必要なのは、賑わいの空間としての都心空間の創出であり、それを支えるという明確な目的を持つ都心部のインフラ整備およびそれをサポートする公共交通整備であると思われる。EV共同利用実験本誌でも紹介していますEV共同利用実験が豊田市でも始まりました。e-com(市役所駐車場内) 埼玉大学 助教授 久保田 尚豊田市 ITSの社会実験始まる道路交通情報システム高度化実験駐車場総合案内板寄稿「クルマ社会のかたち」
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