まちと交通 1999年10月 2号
12/16
1.はじめに 日本においても昨今、地球環境保全の観点から環境にやさしい交通システムのあり方が問われている。自動車に依存し過ぎない将来的にも持続可能な交通として自転車交通が近年注目されるようになってきた。自転車はいろいろな意味で今後のゆくえが楽しみな乗り物である。 筆者は昨年と今年、欧州の数都市を訪れた際、当地で自転車利用の実態に触れることができた。そこで本稿では、僅かな滞在ではあったが現地での見聞ならびにこれまで収集した国内外の自転車交通関連各種資料などをもとに、都市における自転車利用についてまとめることとした。多くの課題を抱える中心市街地の活性化、環境にやさしいまちづくりを考える何らかのきっかけになれば幸いである。2.自転車利用を取り巻く環境■自転車王国 オランダの場合 オランダの首都アムステルダム(人口約70万人)では、1992年に自動車抑制の是非を問う住民投票が行われ、「抑制」が賛成過半数の支持を得た。当市はこれを受けて翌年の1993年、これまで進めてきた自転車対策をさらに充実させるため自転車交通マスタープランを策定した。その中では、具体的に移動距離が5km以内はできる限り自転車を利用すること、また企業のマイカー通勤を20%以内に抑制するとともに、自転車利用を推奨するための屋根付き駐輪場の整備、通勤手当の見直しを図っている。目標として2005年までに中心部の自動車交通を1990年比で30%削減、2010年までに自転車利用を30%増加させることを掲げている。オランダの交通実態として、全トリップの約3割、鉄道までのアクセス手段としての自転車利用はいずれも約3割に達しており、これをさらに引き上げようというのだから驚きである。またこれらに合わせ、アムステルダム市内40箇所に無人の貸し自転車システムも導入している。■自転車普及ならびに自転車道整備の状況 世界の主な国の自転車普及状況を見ると、表-1のようにオランダ、デンマークが最も高くなっている。日本は欧米諸国と比較して保有率は決して低くないものの、利用環境としての自転車道路の整備状況を見ると、表-2のように極めて整備水準は低くなっている。今年訪れたイギリス(ロンドン)、ベルギー(ブリュッセル)、オランダ(アムステルダム)の順で街中における自転車利用の密度が高くなっていったのを現地で実感したことを裏付けるデータである。■走行・駐輪環境 欧州では自動車道・歩道と完全分離された自転車専用道路ないしは専用の走行車線が整備されていることはごく一般的である。日本では大規模自転車道を始めとする一部の自転車専用道路を除いては「普通自転車の歩道通行可」とした歩道がその機能を代替している場合がほとんどである。欧州では自転車はあくまで「車両」として扱われ、歩行者交通とはほぼ物理的に分離されている。従って街中でも自転車専用道路ないしは専用の走行車線、さらには専用の信号機が自動車・歩行者用と別個に設置されている(写真1、写真2)。また駐輪場はその多くが屋外に設置されており、大写真1 道路上の自転車専用停車帯(スイス ルツェルン駅周辺)都市における自転車利用欧州ならびに日本の動向研究員 川本 義海表-2 諸外国との自転車道の整備状況比較国名ドイツオランダアメリカ日本* 都市の自転車交通に関する研究:国際交通安全学会(1997)** 自転車歩行者専用道路等+自転車,歩行者,自動車が分離された道路 (出典)建設省ホームページ(http://www.moc.go.jp/road/press/press0/990602-1.html)年度1985198519881997自転車道延長(km)23,100*14,500*24,000*6,925**道路延長に対する割合(%)4.78.60.40.6延長m/千台6601,31724095表-1 世界の自転車普及状況保有率(人/台) 国名1.0~1.1 1.2~1.5 1.6~2.0 2.1~2.5 2.6~3.0 3.1以上 (注) *は1985年、**は1992年、***は1987年でそれ以外は1995~ 1998年のデータである。(出典) 自転車産業振興協会「自転車統計要覧(第33版)」(1999)オランダ(1.0),デンマーク(1.1)ドイツ(1.3),スウェーデン(1.4)ノルウェー(1.4),フィンランド(1.5)日本(1.7),スイス(1.8),ベルギー(1.9)イタリア(2.2),オーストリア*(2.3)アメリカ(2.6),中国**(2.6),カナダ(2.7),イギリス(2.7),フランス(2.8)ハンガリー(3.1),ブラジル(4.0),ルーマニア(4.5), スペイン(5.7),韓国(6.9),旧ソビエト連邦***(7.0),メキシコ(13.2)
元のページ
../index.html#12