まちと交通 2004年9月 10号
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寄稿ReviewTTRI Letter №10 8 このタグは、愛知万博の入場券に仕込まれるタグと同じものを使用しており、愛知万博開催時には万博入場券で同様な実験ができることを想定している。 近い将来には、交通系の料金(公共交通機関の運賃、高速道路料金、駐車場料金、カーシェアリング料金、ロードプライシング料金など)の決済には、共通のICカードが導入され、料金支払いの抵抗感を緩和するとともに、自動的に上記のようなポイントが加算されるようなシステムが効果的であろう。5) 交通系総合情報提供システム 現在事業化されている交通情報には、リアルタイムの渋滞情報や交通機関運行情報として、VICSやテレビ・ラジオ・インターネットを通じた交通情報があり、経路案内情報としては、カーナビの経路探索やインターネットでの鉄道経路案内がある。この両者の機能を兼ね備えたものとして、渋滞状況を加味した経路探索機能を持つカーナビが世に出始め、また公共交通機関の運行状況を含む公共交通経路案内システムが実験的に開発されている。 将来的には人ベースのナビゲーションが主流になると思われ、マルチモーダル(車と公共交通機関の両者)でリアルタイム情報を入れた、動的経路案内システムを個人の携帯端末で実現したい。この際、交通のリアルタイム情報や、経路の利用状況のデータを収集するのに欠かせないのが、プローブ情報である。官が設置するセンサーに全面的に頼るのではなく、市民がそれぞれに情報を提供しあってセンサーデータを補完する情報収集システムが望ましい。 このような人ベースのナビゲーションは、次節で述べるユビキタスITSにつながるものである。4.モバイルITでユビキタスITS 近年の携帯電話の普及と機能の高度化はとどまるところを知らない。つい数年前まで、ポケベルだ、PHSだと言っていたのが嘘のようである。91年のムーバの発表で本格的な携帯電話時代が始まり、デジタル化したのが93年、PHSのサービス開始が95年、iモードの開始が99年、そして2001年から第三世代携帯電話のサービスが開始されるなど、携帯電話の基本的スペックは急速に進歩してきている。 携帯電話の付加機能も急拡大しており、インターネット接続、電子メール、GPS、デジタルカメラ、バーコード読み取り、デジタルテレビ、そしてつい先ごろ電子マネーチップ付きのものが発売された。こうなるとまさに、Personal Digital Assistant (PDA)であり、商品カテゴリーとしてのPDAとの境界がなくなってきている。「電話もできる携帯電話」というのが冗談でなくなってしまった。 あとは、PCなどとのデータの互換性をもたせれば、携帯電話はユビキタスITの寵児となろう。GPSを利用した歩行者ナビなどすでに、携帯電話によるITSサービスは、始まっているが、これだけ普及した端末をITSにもっと活用しない手はない。 先に述べた人ベースのマルチモードナビゲーション、身障者や外国人のための移動アシスタント、交通系料金の非接触決済、タクシー配車要請、緊急時のヘルプサービス、ID化による「鍵」機能など、総合的な移動アシスタントとして様々なアプリケーションが考えられる。 インフラ側としては、ブロードバンドを安価に使える通信インフラと、都心部でGPSを補完する位置同定タグのようなものがあると便利だ。前者では、最近街中の自動販売機を無線LANの基地局としてネットワーク化し、「街中どこでもブロードバンド状態」にするプロジェクトが構想されている。 また、ICタグなどを使って移動者を総合的にサポートするシステムとして、国土交通省が主催する「自律的移動支援プロジェクト推進委員会(委員長:坂村健東大教授)」が神戸市で社会実験を行う計画になっている。次世代の歩行者ナビゲーションシステムとして実験成果に大いに期待したい。5.ポスト万博が重要 本研究所が位置する愛知県の豊田市や名古屋都市圏では、本年のITS世界会議と2005年に開催される愛知万博(愛・地球博)によって、ショーケース的なITSのデモが数多く行われる。重要なことは、これらのショーケースを活かした、ポスト万博における地域のITS戦略である。この地域は、これらの国際的なビッグイベントを契機に、世界のITSモデル地域を目指すべきだと考える。カーナビやETCのように、単発でビッグビジネスになるようなアプリケーションは、今後あまり期待できない。まさに今回の世界会議のテーマのように、住みよい社会を築くためにITSを活用した施策パッケージを地域戦略として、着実に進めていくべきであろう。それが同時に、情報発信が下手だといわれるこの地域の世界的な情報ソースとなり、またまちづくりとビジネスチャンスに結びつく絶好のシーズとなろう。森川 高行 プロフィール MORIKAWA,Takayuki◆現在: 名古屋大学大学院環境学研究科教授◆最終学歴: マサチューセッツ工科大学博士課程修了, Ph.D. ◆専門分野 交通計画,交通行動分析,消費者行動論,都市計画 循環型環境都市,ITS◆著書・社会活動等 「交通行動の分析とモデリング」(技報堂,共著) ITS世界会議 愛知・名古屋2004 国際プログラム委員会委員長, 当研究所研究企画委員会委員,NPO法人エコデザイン市民 社会フォーラム副理事長,中部地方交通審議会専門委員 等
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