まちと交通 2004年9月 10号
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寄稿ReviewTTRI Letter №10 6という構造になっていることが多い。このような都市交通問題に対しては、TDM(交通需要管理)の手法が有効であり、なかでもアメとムチの政策を複数組み合わせる政策パッケージの適用が効果的であることが知られている。 TDMの基本は、まず旅行者に正しい情報を提供することである。激しい交通集中による渋滞は、出発時刻を10~20分ずらすことで回避できる場合があるし、バスの路線や運行状況をほとんど知らない旅行者も多い。正しい情報を得たとしても、なお自動車のような外部不経済の強い交通手段を選択する旅行者が多い場合は、一部の人に無理なく行動を変えてもらう必要がある。ここで、パークアンドライド(P&R)駐車場を整備したり、都心にワンコイン循環バスを導入するような政策が採られるが、なかなか自動車からの転換が進まないのが現実である。やはりマイカーの「いつでもどこでも性」には勝てないのである。 ここがITSの出番である。旅行者への情報提供はもとより、移動におけるさまざまな抵抗・障害を緩和し、フレキシビリティを高めることが情報技術(IT)の真骨頂である。著者はこれをITS-TDMと名付けており、ITS世界会議のテクニカルツアーで披露される名古屋及び豊田のITSスマートタウンにも、ITSを活用したTDM政策パッケージを導入している。 図-1は、鉄道を持つ都市におけるITS-TDMの政策パッケージ例であり、都心部への車の過度の流入を制御しつつも、都心部へのアクセシビリティ、及び、都心内でのモビリティを確保することを目的としている。その具体的な内容は以下のとおりである。図ー1 ITS-TDMの政策パッケージ例1) ロードプライシングまたは流入デポジット制 直接的な規制にはよらず、都心部への車の流入を減らす最も効果的な方法は、エリア課金型ロードプライシングである。大都市においても混乱もなく有効に機能することは、シンガポールやロンドンの先進的事例で確認されている。エリア課金型ロードプライシングは、ITSの技術なしではほとんど実行不可能である。料金徴収の方法は、シンガポールのように規制エリア流入部でETCを導入するもの、ロンドンのように ナンバープレートをカメラで撮影し自動的に読み取るもの、まだ実際には導入されていないがGPSやICタグを使って車両の場所を特定するといった方法がある。 ロードプライシングで問題となるのは、技術的側面よりも社会的受容可能性のほうである。燃料や車両の維持に多くの税金を取られている上に、さらに税金をとるのかという車利用者の反発、そして郊外のショッピングセンターに行く人がさらに増えて、中心市街地が寂れるという主張の都市計画者や商店主たちの反対である。そこで、これらの反対論を考慮した、ロードプライシングに対する代替案として、以下の「流入デポジット制」または「駐車デポジット制」を提案したい(図-2参照)。 図-2 都心部流入デポジットシステム これは、規制エリアに入ったときに課金するが、その課金額はエリア内の駐車料金清算の際に、控除されるというものである。つまり、このエリア内で買い物などの所用がある人には駐車料金の一部前払いとなって実質的な負担はゼロであるが、エリアを通過するだけの車や違法駐車する車にはエリア課金として機能する。飲料の容器にあらかじめ上乗せ金(デポジット)を加えて販売し、容器を返したときに、デポジットが戻ってくる仕組みと同じである。これならば、市民や都心部商店街からの合意も取りやすくなるであろう。デポジットは、駐車料金だけでなく、協賛店での買物にも使えるようにすれば、ある種の地域通貨のような効果も得られる。 デポジットのやり取りには、ETCなどICカードを使った技術が最適であろう。また、デポジットは全額を駐車料金として払い戻す必要もなく、払戻金を課金額より若干少なくすれば、通過交通車と都心訪問車で課金額の異なるロードプライシング政策と同じ効果を持つことになる。2) 都心モビリティシェアリング 公共交通を利用して都心を訪問した人たち、都心にオフィスを持つビジネスマン、そして都心居住をしている人たちに対して、環境負荷の少ない乗り物を共同利用するシステムを導入する。エコカーや自転車の共同利用、タクシー、バスな
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