まちと交通 2004年9月 10号
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名古屋大学大学院環境学研究科 教授 森川 高行ITSのセカンドステージに向けて寄稿Review5 TTRI Letter №101.いよいよITS世界会議愛知・名古屋せまる 本号が出版されるころには、第11回ITS世界会議愛知・名古屋2004が目の前に迫っているはずである。このイベントは、これまでの10年間の世界会議の歴史を塗り替える画期的なものになるに違いない。それは、これまで専門家のための集会であったものを、広くITSの最終ユーザー=市民に門戸を広げ、メインテーマも交通やITといった手段ではなく、究極の目的である「快適で住みよい社会を築く」ということに設定していることからもわかる。 ITS世界会議は、会議、展示、テクニカルツアーの3本立てで構成されているが、今回は上記の方針に従ってそれぞれに大きな新企画を打ち出した。 会議では、発表の件数を増やすと同時に、これまで一部で見られた盛り上がりのない形だけの発表を少なくするために、聴講者と発表者が普段の会話のようにやり取りできるポスターセッション(本会議では、インターラクティブセッションと呼称)をメインに仕立てた。また、「ITS市民講座」と称して、門戸を広げた3つの特徴的なプログラムも用意されている。ひとつは、主に行政向きの、地域で展開するITSの事例紹介や課題を議論するものである。2つ目は、著名な3人の講師による講演会。そして最後は、まさに市民が企画し、市民が参加する「市民企画イベント」である。市民企画イベントは、本年の4月からNPOが音頭をとって定期的に企画委員会を開いており、ある意味、何が出てくるかわからない「お楽しみ企画」でもある。 展示では、今回新たに大学や研究所の展示を大幅に増やしており、ITSの基礎研究の紹介が幅広く行われる。そして今回の会議全体の目玉でもある「ITSワールド」が展示会場に作られる。これはその名のとおり、ITSのテーマパークといってよく、専門家から子供まで楽しく体験しながら交通やITSのことを学べる施設になりそうだ。 そしてテクニカルツアーは、これまでのように、交通管制センターのような施設を一ヶ所訪問するというのではなく、ツアーそれぞれがひとつのテーマに沿っていろいろな施設を訪問したりやデモを体験するという、まさに「ツアー」仕立てになっている。これらは、名古屋市と豊田市が、「ITSスマートタウン」に指定されたことから、「ITSスマートタウンショーケース」と呼ばれている。なかでも、ITSを活用したさまざま交通政策パッケージで都市交通問題を解決していく姿を、名古屋市と豊田市を舞台にツアーに仕立てたコースは、単一技術や省庁間の壁を越えた、今後の地域ITSの姿として注目されるべきものである。 1995年に横浜で第2回ITS世界会議が開催された翌年に、9つの開発分野などを示した日本のITSのマスタープランが政府から発表された。それから約10年を経過し、日本における2回目の世界会議が開催された後にITSがどのような戦略を持って進められるかが注目される。2.ITSセカンドステージへ ITSのファーストステージとしてのこれまでの10年は、技術開発の時代と言ってよいであろう。カーナビ、VICS、DSRC(ETCに応用されている狭域無線通信)、自動運転に伴うさまざまなセンサリングとコントロールの技術、プローブカーなど目覚しい技術が開発されてきた。 セカンドステージは、明らかに「サービスの時代」となろう。もちろん、ファーストステージでサービスを考えてこなかったわけではないし(例えば、9つの開発分野はサービスによって分類されている)、セカンドステージでは技術開発のスピードを緩めてもよいと言っているわけではない。何を中心にして戦略を練るかということである。 例えば、ETCというサービスのために、日本では高性能のDSRCという技術を開発してきた。ETCという国民へのサービスを中心に考えれば、もっと簡易なシステムで早く大量に普及させることもできたはずである。しかし終わったことをいまさら言っても仕方がない。普及してきたこのシステムを使っていかにサービスレベルを上げるかをセカンドステージでは考えたい。ETC専用の簡易なスマートインターチェンジをどんどん設置すべきであるし、より合理的な高速道路料金システムへの変換にも役立てるべきだと考える。後者の中には、現在社会実験が行われている各種の割引制度や環境ロードプライシングも含まれるが、とくに均一料金制を持つ都市高速道路を含むネットワークでの不合理な料金制度を改める機会である。また、高性能なDSRCのシステムを高速道路の料金収受だけに使うのではなく、さまざまな料金決済や情報収受にも活用すべきであろう。 本稿では、サービスの時代を迎えるITSのセカンドステージに向けて、二つの方向性を示したい。ひとつは、都市交通問題解決の鍵といわれるTDM(交通需要管理)を、ITSを活用してより効果的に実現するITS-TDMである。そしてもうひとつは、自動車ではなく、移動する主体である人をベースにサービスを考えると、モバイルITとテレマティックスの区別がなくなってしまうことから、ITSのユビキタス化を提案したい。3.TDMをITSで効率化 都市部における近年の交通問題は、交通ネットワークやサービスレベルの貧困さのために起こるというよりは、各旅行者(ここで旅行者とは交通を行う人という意味である)の選択の結果が、ある場所、ある時間、ある交通手段(主には自動車)に集中してしまい、全員が不便益を被るとい
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