まちと交通 2004年9月 10号
3/32
(財)豊田都市交通研究所 所長 太田 勝敏(東洋大学教授・東京大学名誉教授)交通まちづくりへの取り組み所感PrefaceTTRI Letter №10 2研究活動の現状・時代背景の変化と都市交通問題 21世紀に入り日本の社会は、少子高齢化と人口減少、経済のグローバル化、地球環境問題への懸念の増大、国際政治における不安定化など基本的構造にかかわる内外からのさまざまな変動にさらされ、社会経済の構造変化が進んでいる。このような時代背景の大きな変化は当然のことながら都市と交通にかかわる課題について市民の認識を変え、新たな対応がもとめられている。このような中で私共の研究所も、発足以来10年以上経過した中で、その役割を再確認し、研究活動の方向・内容を適宜見直していく意識的努力が求められている。近年の厳しい社会経済状況の下でも幸いにして豊田市、トヨタ自動車㈱をはじめ関係者の暖かい支援を受け研究を継続しているが、その成果を市民に見える形で公表し研究所の活動とその役割を理解していただく努力が一層重要となっている。 ところで、上述したような時代背景の変化の下でも、交通安全、道路渋滞、交通公害といった都市交通の基本的課題は依然として大きな問題である。加えて、エネルギーの多消費、温暖化といった地球規模の資源・環境問題、車を使えない高齢者・障害者などの交通制約者の社会参加問題、都市の拡散・スプロールと中心市街地衰退など自動車交通にかかわる諸問題が社会問題となっている。このため、対応策も交通分野だけではなく、都市計画、産業、福祉、教育分野など従来以上に広範な関係者との連携が不可欠となっている。都市計画・まちづくりは、都市交通との機能的関係が特に深く、主要施設や土地利用から発生する交通需要に適切に対応すると共に、長期的には交通サービスが施設の立地や土地利用を誘導していくことから従来から一体的対応がもとめられている課題である。 ・研究所の役割とこれまでの活動 設立当初より私共の豊田都市交通研究所の役割として、1)日本の地方都市を主な対象とした交通問題についての計 画・政策に関する研究の推進、2)豊田市をフィールドとした研究を通して「交通モデル都市」づくりへの貢献、3)研究成果をベースに都市と交通のあり方について全国、アジア、世界への情報発信、という三本柱を掲げている。これまでの研究活動は、1)、2)を中心に進められており、3)の情報発信は国内の地域的発信にとどまり、国際的発信は限定されている。 1)、2)の研究は、具体的計画、政策課題に関連する実態調査、分析に基づく現状把握と現象解析、政策評価など実証的研究を中心に行なわれている。また、地方の公共交▲新しいオフィス-“市民への窓口”へ通・バスサービスの確保、地区交通計画などに関する最近の研究では、土木学会計画学小委員会、日本交通政策研究会などとの連携により同様の都市交通問題に直面している他地域や全国の研究者との共同研究が行われ、関連研究の情報センターとしての役割も育ち始めている。 現在の主要な研究分野としては、高度情報技術の地方都市への適用についてのITS(高度道路交通システム)実用化に関する研究、高齢者・障害者をはじめすべての市民に対してのモビリティ確保に向けた公共交通サービスの確保・改善に関する研究、自動車交通の最大の問題である交通事故の削減に向けた交通安全対策、地区交通計画に関する研究、自動車交通を社会的に適正な水準に抑制する交通需要マネジメントTDMに関する研究、の4分野においている。新たな取り組み 今年度に入って研究所の活動にいくつか新しい動きが進んでいる。ひとつは、これまで長い間研究主席として研究活動を主導してきた伊豆原浩二氏が名古屋産業大学へ異動したことに伴い、新たに名古屋の民間コンサルタント会社で活躍していた安藤良輔氏を招えたことである。これを機に研究体制を含めて研究活動全体の見直しを進めており、限られた貴重な研究資源を一層有効に活用して所期の研究成果をあげるべく努力している。もうひとつは、研究所の駅隣接地への移転とITS情報センターの管理受託である。活性化が求められている中心市街地の中に、そして、市民・来街者と日常的接触が行われる施設との併置ということは、研究活動にも新たな挑戦の機会でもある。ITSを通してということであるが、市民の情報ニーズは交通に限らずまち全般にわたることから、市民との協働の窓口としてもとらえることができる。ことため、交通まちづくりの視点から中心市街地の住民、企業、商店街との連携を含めて、今後積極的に活かすことを検討したい。
元のページ
../index.html#3