報告書 サービス享受度からみた住民の地域公共交通の評価構造に関する研究~個人の背景との比較を通じて~
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11.背景と目的 地方都市においてバスや鉄道をはじめとする公共交通への公的資金を投入することが一般的になりつつある現在、自治体はその妥当性についてどのような判断材料を持って検討すべきかが課題となっている。一般に、政策の妥当性や方向性の判断材料として使われるのは施策に対する住民の満足度や期待度などの評価結果であることが多い。しかし、これらの指標は主観に基づく評価結果であるため、その評価を下す背景にあるものを適切に扱う分析が行われるべきである。 公共交通の政策評価は、住民や利用者の満足度などの評価指標から行われることが多い。その際、多くは回答者の公共交通の利用状況や性別、年齢などの個人そのものの属性を踏まえた視点から分析されるのが一般的である。一方、上述のように公共交通の社会基盤としての位置づけが高まっている背景の下では、単に個人の属性に着目するだけでなく、自動車などの交通手段の利用可能性や、交通弱者である幼児、児童、学生、さらには高齢者との同居状況といったその個人を取り巻く背景(以下、個人の背景とする)を踏まえた評価を行うことが重要な視点となると考えた。 他方で、地域全域の住民から税を徴収し、その公的資金を導入しているにもかかわらず、主に住民の居住地域によって公共交通のサービスを享受する水準(以下、サービス享受度とする)に差が生じる点も評価における大きな課題であると考える。すなわち、単に利用者や沿線住民であるという視点から評価を行うのではなく、そもそも回答する個人がどのような公共交通のサービス享受度下に置かれているかを踏まえた上で、評価を行うことがより重要な視点となると考えた。 本研究の目的はこのような課題意識の下、個人の背景とサービス享受度が住民の評価意識とどのような因果関係を持っているか豊田市でのケーススタディを通じて明らかにしようとするものである。 分析に用いるデータとして、本研究では総合計画策定時など多くの自治体で定期的に行われる住民意識調査の活用に着眼する。この調査は政策に関する総合的な調査を実施していること、対象範囲が市域全体に広がる広範なものであること、総合計画策定時など多くの自治体で定期的に実施する可能性が高い調査であり成果の応用が期待できることなどの特徴がある。 まず、公共交通の政策評価について一般的傾向を把握する。次に、個人の背景を構成すると考える各指標と公共交通の政策評価の関係性について明らかにする。次に公共交通のサービス享受度と政策評価の関係性について、特に「サービスへの可達性」と「サービスの相対利便性」の観点から明らかにする。最後に共分散構造分析による個人の背景と公共交通のサービス享受度を踏まえた公共交通の評価構造モデルを構築し、それぞれの公共交通評価につながる影響関係を明らかにする。

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